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2026年1月1日はシンギュラリティの始まりだったのか?

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8月19日に、Stripeが投資家に送ったレターがリークされました。OpenRouterの買収を説明する文書で、その中に「我々は1月1日をシンギュラリティの始まりと定めた」という一節があります。その背景として、彼らが観測した統計上の変曲点も示されています。

その翌日には、GitHubが8月17日の大規模障害のレポートを公開しました。原因は本質的に容量の問題とのことで、こちらにも需要の急増を示す数字が載っていました。

StripeやGitHubに見えているなら、他にも見えている場所があるはずです。そう思って調べてみました。

「1月1日」と書かれたレター

レターは8月19日付で、Axiosが報じ、Eric Newcomer氏が全文の画像を公開しました。問題の箇所はこうです。

It's a fuzzy and perhaps already overworked term, but we decided that January 1st marked the beginning of the singularity, and we have since been operating on that basis. The singularity is often invoked alongside millenarian forecasts, but, in our case, we simply saw a large inflection in long-run trends (for example, a huge increase in the rate of new firm creation), and we decided that we ought to take the phase change seriously.

曖昧で、すでに使い古された言葉かもしれないが、我々は1月1日をシンギュラリティの始まりと定め、それ以来その前提で経営している。シンギュラリティは千年王国的な予言と一緒に語られがちだが、我々の場合は単に長期トレンドの大きな変曲点(例えば新規企業設立率の激増)を観測し、この相転移を真剣に受け止めるべきだと判断した。

Stripeは「シンギュラリティ」を超知能の到来ではなく、自社が観測した統計上の変曲点として定義し直しています。用語そのものが曖昧(fuzzy)で使い古されていることは、レター自身が認めています。根拠として挙げられた数字は次のようなものです。

  • Stripe Billingが前年比71%成長
  • Stripe Atlas(法人設立サービス)での法人設立が累計10万社に達し、現在はデラウェア州の法人設立の1/4超を占める
  • 買収先のOpenRouterのトークン消費が年初来、週9%の複利で成長(年率にすると約90倍)

一方で、このレターはStripe史上最大の買収と非上場維持を正当化する文書でもあるので、TechCrunchのように「シンギュラリティは買収を物語に束ねる装置だ」と読む人がいるのも分かります。

とはいえ、Stripeは500万社超の事業者と、世界GDPの約2%に相当する資金フローを処理する会社です。しかも、自社の顧客が経済全体より速く成長している理由に「選択効果」(革新的な企業のほうがStripeを選びやすい)を自ら挙げていて、自分たちのデータをそのまま経済全体に外挿できないことは認めています。定義を観測に限定し、留保も自分で書いている。そういう文書の数字は、少なくとも読む価値はあるはずです。

GitHubの障害レポート

8月17日にGitHubが8時間近くにわたって大規模な障害を起こしました。3日後に公開された事後レポートは、8月6日のActions障害と合わせて2件を分析していて、こんな一節がありました。

Both incidents were fundamentally capacity failures—critical components didn't scale before demand exceeded their limits. Since April, monthly commits have grown from 1.4 billion to 2.9 billion.

2件の障害はいずれも本質的に容量障害だった。需要が限界を超える前に重要コンポーネントがスケールできなかった。4月以降、月間コミット数は14億から29億に増えた。

月間コミット数が4か月で2倍。この記事自体は原因をAIと明言していませんが、5月の可用性レポートには「トラフィックはAI支援・エージェント型の開発ワークフローに大きく牽引されて急増している」とあり、「4か月で実効容量を2倍超にした」とも書かれています。容量を倍にしたのに追いつかなかった、ということです。

Stripeは「企業設立と課金」、GitHubは「コード」を見ています。別々の場所から、同じ時期に急激な伸びが報告されていることになります。

他にもあるはず

まずトークン。OpenRouterのトークン処理量は週5兆(2025年11月)から週25兆(2026年5月)に増え、8月の買収発表では「1日10兆以上」とされています。週に直すと70兆超で、9か月で14倍です。

Googleの月間トークン処理量は480兆(2025年5月)、980兆(7月)、1,300兆(10月)、3,200兆(2026年5月)と前年比7倍ですが、この4点からは、年末年始に固有の段差は確認できません。

次に売上。Anthropicの年換算売上は2025年末の90億ドルから7月末には650億ドルになったと報じられています。Dario Amodei氏は5月に「年10倍成長の世界を想定して綿密に計画したのに、80倍だった」と話しています。同じ発表の中で、Claude Codeの週間ユーザーは2026年1月1日以降で2倍、法人契約は4倍になったとも述べられています。NVIDIAの8月の決算はデータセンター売上が前年比117%増で、前四半期の92%増からさらに伸びが拡大しました。

人間の利用者数も見ておきます。ChatGPTの週間ユーザー数は4億(2025年2月)、8億(2025年10月)、9億(2026年2月)と公表されていて、こちらはほぼ直線です。

それからトラフィック。Cloudflareの2025年の年次レポートには「世界のインターネットトラフィックは2025年の年初から年末にかけて19%増え、顕著な伸びは8月に始まった」とあります。ただし、エージェントの活動を直接反映しそうなCloudflare Radarのボット比率を月次で追うと、2025年7月の30.8%から2026年7月の34.8%へと、1年で4ポイントの緩やかな上昇です。「非人間が過半」という数字も同じCloudflareから出ていますが、こちらはHTMLページへのリクエストに限った数字です。

最後に個人の証言。Andrej Karpathy氏が2025年12月27日に書いたポストです。

I've never felt this much behind as a programmer. [...] Clearly some powerful alien tool was handed around except it comes with no manual and everyone has to figure out how to hold it and operate it, while the resulting magnitude 9 earthquake is rocking the profession.

プログラマーとしてこれほど取り残されたと感じたことはない。[...] 明らかに強力なエイリアンの道具が配られたのだが、マニュアルは付いておらず、皆が持ち方と使い方を手探りしている。その間にマグニチュード9の地震が職業を揺るがしている。

このポストはStripeの「1月1日」の5日前に投稿されています。

伸び方が変わったもの、変わらないもの

並べてみると、伸び方が変わった観測点と、以前と変わらないペースで伸びている観測点に分かれます。

  • 変わった: GitHubのコミット数、OpenRouterのトークン、Stripe Billingと法人設立、コーディングツールの利用と売上、AnthropicやNVIDIAに見えるコンピュート需要。
  • 変わらない: ChatGPTの利用者数(ほぼ直線)、Googleのトークン総量(年7倍ですが伸び方は連続)、Cloudflareのボット比率、米国の法人設立(申請は高い水準ですが、設立数の予測値は緩やかな増加で、桁が変わるような動きではありません)。

変わったほうに共通しているのは、人間が直接触る場所ではなく、エージェントとインフラの間、あるいはインフラと決済の間です。コーディングツールの利用者数だけは人間側の数字ですが、人間がエージェントを使い始める入口だと考えれば、例外というより起点です。人間の利用者は線形に増え、機械同士のやりとりが指数で増えている、という仮説と整合しています。

1月1日は観測日ではなく象徴

では2026年1月1日に何かが起きたのか。集めた範囲では、傾きが変わったのは2025年の後半です。Cloudflareの8月、OpenRouterの11月、Karpathy氏の12月。Stripe自身も、2月に公開した2025年の年次レターで、2025年にStripe上で事業を始めた企業群は2024年組より約50%速く成長し、ローンチから3か月でARR1000万ドルに達した企業数は前年の2倍だったと書いています。1月1日より前から、傾きは変わっていました。

そして2026年の前半に、各所で閾値を超えました。GitHubの容量、Anthropicのコンピュート、Stripeの不正サインアップ(4月のカンファレンスによれば、AIサービスへの登録試行の6件に1件が不正で、無料トライアルの悪用は半年で2倍以上とのこと)。OpenAIの評価環境では、7月に、エージェントに侵害された社内パッケージリポジトリが、その後の持続的な大量アクセスで落ちています。

Stripeの「1月1日」は、変曲点を年の頭に丸めた日付で、その日付自体にはさほど意味はないと思います。ただ、丸めた日付であっても、そこから「その前提で経営する」と決めたことには意味があります。

Stripeはレターに「賢人たちの予測の多くがすでに完全に外れている」とも書いています。今回の調査に基づく見立ても、半年後には外れているかもしれません。

Karpathy氏の言う地震は、8か月経った今も収まっていないようです。私はといえば、地震計に気を取られながら、今日もひたすらマニュアルのない道具の使い方を手探りしています。